自由帳

最終更新日 2024年10月15日(最初のこの背景色の記述箇所その直後のカッコ内の記述について、所々、加筆を行いました)

「言葉になる思考」※が展開し、その展開した部分が発話運動(言葉を話す体の動き)となって音として口から出てきて、それが耳から聞こえてくるまでの間に、微かなタイムラグ(時間のずれ)が存在します。 図1

話すタイミング(「言葉になる思考」が展開を始めるタイミング)と、話した音(「言葉になる思考」が実際に展開した部分)が耳から聞こえてくるタイミングが、微妙にずれているということです。

自分が話す言葉(音)の知覚は、話すこと(考えること、展開する「言葉になる思考」)から見ると、常に後追い(あとから)です。「言葉になる思考」の展開後、口から出て耳から入ってきた音を聞いている、口から出て耳から入ってきた音が聞こえてきている、ということです。

「言葉になる思考」の展開と、展開した「言葉になる思考」に対応する音の知覚との間に秩序(順序)/タイムラグがある中で、発話(音)に注意を向け、口にしようとしている音(口から出るはずの音/耳から聞こえてくるはずの音)と四つに組んだ状態で言葉を話そうとすると、発話(音の生成過程)に聴覚を巻き込み、脳で「耳から聞こえてくる音」=「言葉になる思考」という状態/関係が出来上がり、まず「言葉になる思考」が(声に出して)考えることができず一時停止し、次いでそれに連動する「発話運動」も一時停止するため、言おうとしている言葉が詰まり、言葉を口にすることができません。 図2

詰まった音をなんとか口(耳)にしようと、音に照準を合わせ、音を標的に、音を直接、生成/コントロールしようとすると、上の話せない状態が継続します。意識的な発話行為(発話方向に向いた力)も、「言葉になる思考」の展開に条件づけられている「発話運動」が一時停止しているため、通常であれば吸収される「発話運動」に吸収されません。それは、(発語に関する)協調運動の障害、力み、喉の締めつけ、上半身の硬直のような形で表に現れます。

これらは、吃音の原因ではなく、「発話運動」が一時停止しているところに話そうとしてかかった力です。たとえば、上半身の硬直に関して言えば、声になるはずの「吐く息」(肺の活動)も、(今まさに)話そうとする態勢を保ったまま一時停止(「言葉になる思考」の展開待ちを)していて、そこに「言葉になる思考」の展開を伴わない発話方向の力が加わったことで生じています。あるいは、発話(音の生成過程)に聴覚を巻き込んだ状態で、「言葉になる思考」が強引に展開しようとして生じています。

(言い出しの音でも、話している途中の音でも、口にしようとしている音[耳から聞こえてくるはずの音]に注意が向いた音が、詰まったり、引っかかったりしています。詰まったり、引っかかったりする部分では、発話[音の生成過程]に聴覚を巻き込んでいます。重いブロック[難発]に陥るか、言い出しが軽く引っかかる程度で済むかは、そのときの音に向かう注意の強度と、音/体が詰まったときの意識/注意の反応の仕方、反応の癖、によって違ってきます)

以上のことから、話し始める瞬間(「言葉になる思考」が展開を始める瞬間)には、(主な/中心となる)注意は、口にしようとしている音(口から出るはずの音/耳から聞こえてくるはずの音)から離れ、思考(考えることそれ自体)に向いていないといけないということです。

言葉になる思考:頭の中で「腹が減った」と展開すれば、その展開と歩調を合わせ瞬間をほぼ同じくして、その展開する「思考」に重なり合うように、「腹が減った」と口から言葉が出てくる思考。上の図1、図2にある「発声意思をともなう思考」が、このブログの「言葉になる思考」にあたります。


成人の吃音中核症状の病因的考察と臨床への応用」(抄録集 24ページ)という文献には以下のようにあります。

>【結論】成人の吃音の本質的な機序として、吃らないようにと語頭音に注意を向けて発音しようとすることによって後続音との調音結合が破綻し、吃音症状が起きる、というモデルを提案した。注意を最初の音から外すことで自然な発話を誘導することができ、それが体験的に理解できると、吃音を意識しない、自然で楽な話し方への移行が容易になる。

機序:ものごとが起こるメカニズム、仕組み

語頭音:言い始めの音、発話の最初の音

調音結合:「連続的に音を連ねて話すとき、先行した音を発する運動の一部と後続する音を発する運動の一部が結合し、音響的特徴を変化させること」(建帛社 クリア言語聴覚療法7「吃音・流暢性障害」121ページ)

文献には他に【研究背景】【目的】【方法】【結果】が書かれています。


「注意を最初の音から外す」こと、発話(発話全体)に対する過度な注意を外すことに関しては、吃音を軽くするためにのページ中ほどにある【キーワード】の箇所とそこに紹介されている文献の内容を参考になさってください。各文献へのリンクは【キーワード】の手前【吃音の理解と改善に役立つ文献等】の箇所にあります。


言葉/発話を強く意識したとき、言葉が詰まっているとき、意識は音を求めているかもしれませんが、そのとき本当に必要なのは、展開を始める「(言葉になる)思考」です。その邪魔をしているのが、(耳から聞こえてくるはずの)音に向かう注意です。

難発状態に陥り、そこからなかなか抜け出せない場合、抜け出せない原因として、話そうとする一方で、意識の中に、具体的に限定すれば、"音の知覚の場"(そこに口にしようとしている音が出現し、そこにその音が知覚できる「はず」と注意を向けている場)に、口にしようとしている音を探している、あるいは、口にしようとしている音を求めている、口にしようとしている音が出現するのを待っているため(←どうにも話せない状態の中、なんとか言葉を口にしようとする過程で、話そうとする方向で音を探したり、求めたり、待ったりすることに、注意の配分的に、大きな注意[注意資源]が使われている)、思考(考えるという活動それ自体)への意識(注意)の切り替えができず、口にしようとしている音への注意が容易には外れないことが挙げられるかもしれません。


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当初は、どもらないように、あるいはちゃんと喋れるようにと、発話(音)に自発的に向けていた注意も、長く同じことを繰り返して来た中で、耳から聞こえてくるはずの音(口から出るはずの音)に対して、自分では注意を向けているつもりはなくても、話そうとすると脳に(心理的な緊張とは違う)違和感を感じつつ言葉が詰まることがあるかもしれません。その場合でも、話すときに注意が発話から他のことに外れれば、音に注意を向けている(音に注意が向いている)自覚があるときと同じように、吃音が軽減すると思います。


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ふたつ上の、吃音の直接の原因の話と内容が重なりますが、

言葉は思考なので、言葉が詰まる、詰まって出てこない、言葉が引っかかるということは、声に出して「考え事」ができない声に出してスムーズに「考え事」に入れない、何か「障害物」(注意が思考/考え事にまっすぐ向かわず他のことに向かう、あるいは他のことにも向かう、「注意の癖」)がそこにあるということです。

発話を意識せずスムーズに話せているとき(あるいは、スムーズに話せている部分)とは違う、別の話し方(注意の向け方/注意の使い方)が登場しているということです。

どもっても吃音を気にせずくつろげる相手との会話でもどもるという場合の「注意の癖」ばかりでなく、「認知行動療法的な電話訓練」(抄録集 54ページ)に出てくる「構え」とそれに伴う「発話モード」のような、普段はどもらないけれど、特定の状況になると吃音が出やすい、「意識の癖」の問題も、発話の邪魔をする「注意の癖」を引き出す役割をしているのかもしれません。


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「吃音から注意を外す」という表現を目にすることがあると思いますが、そこでの「吃音」とは「吃音のこと」を指していると考えるといいと思います。すなわち、「どもったらどうしよう」「どもったら大変だ」「どもりたくない」「どもらないように(話したい)」といった思いから注意を外す、と。


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熊野宏昭 マインドフルネス基礎編

上の動画の1時間26分6秒から注意資源(心のキャパシティ)の話が始まります。ここでの話で大切なのは、1時間29分4秒までのおよそ3分間の部分です。

ものごとを考えたり、何かに注意を向けたり、読んだり、話したりといった注意(心の活動)に関わるものには、注意資源(認知資源)と呼ばれるものが使われます。注意資源とは、注意や思考、判断といった脳の活動に使われるエネルギーのことです。

注意資源は、人それぞれ使える容量が決まっていて、同時平行作業で満足に出来る、注意を必要とする活動の数も、注意資源の容量の大きさによって決まってきます。一つ二つのことに大きな注意が使われると、他の活動に使えるだけの注意資源が残らなくなるケースが出てくるということです。

苦手場面などで、言葉の不安や場の恐怖心、自身の緊張状態、完璧主義、イライラなどに注意が奪われたり、意識して言葉を話そうとして構えたりすると、その場での状況判断や、話の内容についてじっくり考えたり、話す(声に出して自由に「考える」)ために必要な注意資源が、必要なだけ残らなくなるケースが出てくるということです。

(( 自分の中に、「考える人」(話す人)だけでなく、発話の過程(言葉を口にするまでの過程)に注意を向ける「観る人」や、口にしようとしている言葉(音)に注目したり、口から出ている言葉(音)、出た言葉(音、その残像)に持続的な強い注意を向ける「観る人」「聴く人」が立つと、それらのことにも注意資源が使われます。

これらは、上のマインドフルネスの動画にある足の裏の感覚に注意を向けながら画面の文字を読むエクササイズと違い、円滑に話せない話し方、話すことに支障が生じる話し方でも、本人の中で、(普段、吃音や発話を意識せずにどもらずに話しているときに無意識に使っている話し方と)話す(話すため)という方向が同じなので、厄介です。))

認知行動療法を用いたグループ訓練」(抄録集 56ページ)という文献には、「吃音者の中には、考えが浮かんだ後に、整然と文章を作り、そこにチェックをかけて、そのうえで話すということをしてきた人々とお会いしてきた。発話メカニズムからすると、これは多大な注意資源を用いており、相手の発話内容や表情変化を捉えるほうに有効に注意資源を活用できていない可能性がある。これは翻って実質的な会話がうまくいかないことに繋がり、コミュニケーションの質を下げることになる」と書かれています。

冒頭の動画にあるマインドフルネスについてですが、「小児発達性吃音の病態研究と介入の最近の進歩」という文献には、「吃音から注意を外してコミュニケーションに集中するためには,マインドフルネス瞑想訓練が有効である」とあり、「認知行動療法的な電話訓練」(抄録集 54ページ)には、どもらないで話せる相手と話すときの「構え」と、職場で電話を使うときの「構え」との違いに気づくための観察力をつけたり、「「吃らないように」という考えから注意を逸らす」のに、マインドフルネス瞑想訓練が役立つ、と書かれています。また、身体障害者リハビリテーション研究集会2018の基調講演の中(報告集の21ページ3行目から25ページにかけて)でも、マインドフルネス瞑想とその利点について述べられています。

マインドフルネスに触れられた箇所は上の部分だけですが、「小児発達性吃音の病態研究と介入の最近の進歩」は小児保健研究(電子ジャーナル)のサイトにあります。「一般 ログイン」(ログインIDとパスワードは不要)から入り、入ったページの2018年度 77-1 をクリック/タップするとダウンロードのためのリンクがあるページが表示されます。「小児発達性吃音の病態研究と介入の最近の進歩」は上から3番目にあります。


※マインドフルネスの注意事項です。

「マインドフルネスをしてはいけない人」はいますか?

マインドフルネス心理臨床センター


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音声化プロセスも内声化プロセスも、無意識の自動化されたものとは別に、自分の頭で意識してこれを行おうとすると、脳に違和感を伴いつつ、おかしなことになります。どちらも対処法は同じでプロセスから注意を外す/他にそらす。

どちらの試みも音が標的になっています。

音は照準を合わせる標的ではなく思考活動の結果です。

言葉は展開する思考です。


※ここのでの「音声化プロセス」とは、言葉を音として口に出す発話プロセスのことを指しています。「内声化プロセス」とは、書かれている文字を音に変換して頭の中の言葉/声にして黙読するときや、言葉で考え事をするときに言葉/音として頭の中に浮かんでくる声、言葉を口にする前に一度頭の中で言ってみるリハーサルのような、頭の中の声が生まれるプロセスのことを指しています。「プロセス」とは過程(手順)のことです。

(誤って身に着けた)意識的な音声化/内声化の最初のステップは、"音の知覚の場"に注意を向けることから始まるようです。

"音の知覚の場":そこに口にしようとしている音(あるいは、思い浮かべようとしている音)が出現し、そこにその音が知覚できる「はず」と注意を向けている場

不意にどもるとき、自分の言葉を意識してどもるとき、どもる寸前/直前の注意(意識)は、吃音のホームポジション、"音の知覚の場"に来ているかもしれません。